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アーティスト
2025.11.02

花の美しさを引き出す、押し花アートの達人・杉野宣雄(すぎののぶお)さん|HanaCocoアーティストVol.1

花をただ飾るのではなく、その美しさを最大限に引き出すアーティスト。素材としての花の魅力に向き合い、技術と感性で作品へと昇華させる姿は、まさに現代の匠。花の美しさを極める世界的押し花アーティスト杉野宣雄さんの世界をご紹介します。

花に命を託す芸術家 押し花アート杉野宣雄さん

花は咲き、そして散っていきます。
その一瞬の美しさは人を惹きつけますが、あまりに儚いものです。
けれど、その儚さを惜しむ心こそが、人を花に惹きつけてやまない理由なのかもしれません。

その花の命を留め、作品として未来に手渡す人がいます。押し花アートの第一人者、杉野宣雄(すぎののぶお)さんです。

誰もが一度は身近に感じる押し花の世界に、彼は大きな可能性を見抜きました。

花の美しさをただ閉じ込めるのではなく、未来へとつなげることができるのではないか…。その直感が、のちに押し花を芸術へと押し上げる原動力となったのです。

押し花文化との出会いと革新

押し花はこれまで、身近な趣味や手仕事として親しまれてきました。

しかし杉野さんは、その世界に眠る可能性を見抜き、花の美しさを長くとどめる技術を確立することで、押し花を芸術表現へと押し上げました。

最大の課題は、色が褪せてしまうことでした。
時間が経つと押し花は茶色く変色し、当初の鮮やかさを失ってしまいます。
杉野さんはこの問題に挑み、研究を重ね、花の色を鮮やかに保つ独自の方法を開発しました。

花は散って終わる存在ではなく、新しい姿に生まれ変わり、再び人を楽しませることができる。
その信念が、この技術を生み出しました。

花を再び咲かせる

杉野さんの作品は、単に花を平らに留めただけのものではありません。

草花を巧みに組み合わせ、鮮やかなブーケや幻想的な風景を描き出します。
そこには単なる植物の集合ではなく、物語が宿っています。

立体の花が「押す」という行為によって平面になる。
しかし杉野さんの作品からは、不思議と奥行きや広がりが感じられます。
花の命を一度閉じ込めた後、新しい姿で再び咲かせているかのようです。

世界に広がる押し花

杉野さんの挑戦は日本にとどまりません。
イギリスやフランス、アメリカをはじめ、世界各国で展覧会を開催し、多くの人々から高い評価を得てきました。
海外の来場者は、日本発の押し花文化を初めて目にし、「花がここまで豊かに表現できるのか」と驚きを隠せませんでした。

そして2025年、杉野さんはスリランカを訪れ、世界遺産や現地の草花に触れました。
その際に出会った菩提樹をテーマに、新たなビジネスプロジェクトを立ち上げるそう。
押し花の技術を通じて「祈り」と「自然」を結ぶという挑戦です。
言葉を超えて花がつなぐ力を、旅のなかでも確かめる時間となりました。

杉野さんにとって、コミュニケーションの中心にあるのは「花」。
共通の言語も大切ですが、それを超えて人の心の奥に届くのが文化の力だと語ります。

美術界から「芸術だ」との評価を受けたことは、押し花を「趣味」や「手仕事」から「アート」へと押し上げる大きな契機となりました。
杉野さんは日本発の押し花文化を、世界に誇れる芸術にまで高めてこられたのです。

教えることの喜び

杉野さんの功績は、作品づくりだけにとどまりません。教育者として、多くの人に押し花の魅力を伝えてきました。

押し花の教室には、学生から主婦、定年を迎えた方まで幅広い世代が集まります。

花と向き合う時間は、心を落ち着け、暮らしにやさしい彩りを添えてくれます。
作品を完成させた達成感や、集中して花を押すひとときは、多くの人に喜びをもたらしています。
「花を扱っていると、心が静かになっていく」
そう語る受講者も少なくありません。
杉野さんが大切にしている「人の心を癒やす」という言葉には、多くの実感が込められているのです。

花柄シャツに映る日常

作品だけでなく、杉野さんの立ち居振る舞いからも花への深い愛情が伝わってきます。

インタビューの日も、花柄のシャツを身にまとっていました。
派手すぎず、やわらかな色合いの模様。
その姿は「花とともに生きている」日常をそのまま映しているようでした。

芸術家というと少し近寄りがたい印象を持つ方もいるかもしれません。
しかし、不思議と杉野さんにはそれを感じません。
きっとそれも「花」が持つ力なのでしょう。

人生を刻む芸術

押し花は、人生の節目を残す手段にもなります。
入学や卒業の祝いの花、大切な人から贈られた一輪。
そうした花を形にして残すことで、作品は「記憶のしおり」となり、心をそっと支えてくれます。

花は散るからこそ、人はその瞬間を残したいと願うのです。
杉野さんはその願いに応え、押し花を人生と心を結びつける芸術として広めてきました。

暮らしの中の花

また、「大きな美術館で鑑賞する特別なもの」だけでなく、「暮らしの中で楽しむ押し花」にも力を注いでいます。
庭の花や道端の草花を押し花にすれば、はがきや小物として日常を彩ることができます。

芸術は遠い世界のものではなく、暮らしに寄り添うもの。
その考え方が、多くの人を押し花の世界へ導いているのです。

絶え間ない挑戦、そして未来へ

杉野さんは今も新しい挑戦を続けています。デジタル技術との融合や、空間を彩る新しい表現方法など、押し花の可能性をさらに広げています。

「花は散って終わるものではなく、新しい姿に生まれ変わることができる」その信念が杉野さんを前へと進ませています。

これからも杉野宣雄さんは、花の命の美しさを伝えながら、多くの人の心にやさしい彩りを添えていくことでしょう。

杉野宣雄さんの作品はこちらから

杉野宣雄さんの作品はこちらから


杉野宣雄さんの“花の美しさ”をそのまま閉じ込めた作品は、時間を超えて咲き続けるような優しさと輝きを放ちます。
ぜひ、杉野宣雄さんの押し花が紡ぐ“一瞬の美しさ”を眺めて、花の命の輝きを感じてみてください。


この記事を書いた人

阪口ゆうこ
ミニマリスト/コラムニスト。Instagramフォロワー10万人超。40代以降の暮らしをテーマに、ムダを削ぎ、余白を整える生き方を綴っている。日々の生活で気づいたことや、セカンドライフの始まりに見えてきた景色を、等身大の言葉で届けている。愛猫家であり、猫たちに人生を乗っ取られがち。
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